GraphRAGとは?メリット・デメリットや仕組みについて解説

ChatGPTをはじめとする生成AIの回答精度を高める技術として「RAG(検索拡張生成)」が普及していますが、その進化形として今、大きな注目を集めているのが「GraphRAG(グラフRAG)」です。
従来のRAGが苦手としていた「情報の断片を繋ぎ合わせた複雑な回答」や「文書全体の要約」を可能にするこの技術は、AIの活用フェーズを一段階引き上げるものとして期待されています。
本記事では、GraphRAGの基礎知識から仕組み、導入の利点や課題までを詳しく解説します。
目次
GraphRAGとは
GraphRAG(Graph Retrieval-Augmented Generation)とは、Microsoftが発表した、ナレッジグラフを活用してRAGの精度を飛躍的に高める手法です。
従来のRAGは、テキストをベクトル化して類似する箇所を探し出す仕組みとなっていましたが、GraphRAGは文書内の言葉同士の関係性をグラフ構造として整理します。
これにより、AIは単なるキーワードの類似性だけでなく、文脈や情報の繋がりをより深く理解し、より人間らしく高度な回答を生成できるようになります。
GraphRAGとRAGの違い
従来の一般的なRAGとGraphRAGでは、情報の探し方と理解の深さが大きく異なります。
従来のRAGは、質問に対して、似た内容が書かれた断片的な情報を見つけるのは得意でしたが、複数の情報を統合したり、要約を行ったりするのは苦手でした。
一方でGraphRAGは、あらかじめ情報の繋がりを構造化しているため、「AとBとCの関係性を踏まえて全体を説明して」といった複雑な問いに対しても、関連する情報を網羅的に拾い上げることが可能です。
GraphRAGの仕組み
GraphRAGは、回答を生成する前のインデックス作成の工程が非常に緻密です。
その仕組みを、以下の5つのステップに分けて解説します。
- ソースデータの精緻なチャンク分割
- LLMによるエンティティと関係性の抽出
- ノードの集約とナレッジグラフの構築
- 階層的コミュニティ検出と事前要約
- 2つのクエリモード
それぞれ詳しく解説します。
ソースデータの精緻なチャンク分割
まず、取り込む文書データを「チャンク」と呼ばれる適切な長さに分割します。
この分割の精度が最終的なナレッジグラフの質を左右するため、GraphRAGでは、後の工程でLLMが情報の関係性を正確に抽出できるよう、通常のRAGよりも文脈を維持しやすいサイズに分割しています。
LLMによるエンティティと関係性の抽出
分割された各チャンクに対し、LLMを用いてエンティティ(人、組織、場所、概念などの固有名詞)と、それらの関係性を抽出します。
具体的には、「A社がB社を買収した」という文から、A社とB社というノード(点)と、買収というエッジ(線)を見つけ出すような作業が行われます。
これにより、単なる文字列が意味を持った文章へと変換されるのです。
ノードの集約とナレッジグラフの構築
抽出された膨大なエンティティと関係性は、そのままでは断片的な情報の集まりに過ぎないため、これらを統合して一つの巨大な「ナレッジグラフ」を構築します。
異なる文脈に登場する同じ意味の表現を特定し、1つのノードとしてまとめることで、バラバラの文書に散らばっていた事実が結びつき、情報同士の相関関係が可視化されます。
こうして構築されたナレッジグラフは、文書全体の知識構造を俯瞰するための土台となります。
階層的コミュニティ検出と事前要約
GraphRAGの大きな特徴のひとつが、構築したナレッジグラフから関連性の高いノード群を「コミュニティ」として自動検出する仕組みです。
アルゴリズムがグラフ全体を分析し、巨大な知識ネットワークを意味的にまとまりのあるグループへ階層的に分類します。
さらにGraphRAGでは、各コミュニティごとにLLMを用いた事前要約を作成します。
この要約をあらかじめ保持しておくことで、AIは必要な粒度の情報だけを参照し、文書全体を読み直すことなく、俯瞰的から詳細レベルまで柔軟に回答を生成できるようになります。
2つのクエリモード
GraphRAGは、質問内容に応じて「Global Search」と「Local Search」の2つのクエリモードを使い分けます。
Global Searchは、データセット全体を横断し、「全体としてどのような傾向があるか」といった大域的な問いに対応するモードです。
一方、Local Searchは特定のエンティティや事象を起点に、その周辺情報を深く掘り下げる検索を行います。
この2つの検索視点を組み合わせることで、GraphRAGは抽象的な問いから具体的な質問まで幅広く対応しているのです。
GraphRAGのメリット
GraphRAGの導入には、以下のようなメリットがあります。
- マルチホップ推論の実現
- 大域的な質問への強さ
- ハルシネーションの抑制
それぞれ詳しく説明します。
マルチホップ推論の実現
GraphRAGは、「A社と取引のあるB社が、最近買収した企業の技術は?」といった、複数の情報を段階的に繋ぐ必要のあるマルチホップ推論を得意としています。
エンティティと関係性をグラフとして保持しているため、「A→B→買収企業→技術」という経路を正確に辿り、論理的に一貫した回答を生成することができます。
大域的な質問への強さ
従来のRAGが最も苦手としていたのが、「この1,000件のフィードバックから見える主要なトレンドは?」といった、データ全体を網羅的に理解する必要がある質問です。
しかしGraphRAGは、階層化されたコミュニティ要約を活用することで、膨大な情報を整理したうえで要点を提示できるため、このような大域的な質問にも対応することができます。
ハルシネーションの抑制
AIが嘘をつく「ハルシネーション」は、多くの場合、情報の欠落や文脈の取り違えから発生します。
GraphRAGでは、回答の根拠となる情報が、エンティティと関係性として明示的に管理されているため、論理的な飛躍が起こりにくく、ハルシネーションを抑制することが可能です。
GraphRAGのデメリット
GraphRAGのデメリットは、以下の通りです。
- 構築時のトークン費用と時間が大幅にかかる
- グラフデータベースの運用知識が必要
- レスポンスに時間がかかる
それぞれ詳しく解説します。
構築時のトークン費用と時間が大幅にかかる
GraphRAGは、インデックス作成の段階でLLMをフル稼働させ、エンティティの抽出やコミュニティごとの要約を繰り返し実行します。
そのため、従来のRAGに比べてAPIのトークン費用が数十倍、時にはそれ以上に膨らむこともあります。
また、数千ページにおよぶ文書を処理する場合、インデックスが完成するまでに数時間から数日を要することもあるため、費用と時間の試算をしておく必要があります。
グラフデータベースの運用知識が必要
従来のベクトルデータベースによる管理とは異なり、GraphRAGを自前で実装・運用するには、Neo4jをはじめとする「グラフデータベース」の運用知識が求められます。
グラフ特有のデータ構造の設計や、クエリ言語を用いた最適化など、エンジニアリングの難易度としてはやや高めになる点もデメリットといえます。
レスポンスに時間がかかる
回答生成時に、複雑なグラフ構造を探索し、複数のコミュニティ要約を統合して処理するため、ユーザーが質問を投げてから回答が返ってくるまでに時間がかかる傾向があります。
高速なレスポンスが求められるリアルタイムチャットなどの用途では、この速度低下がネックになる可能性があるため、システムの目的に応じた適切なチューニングやUXの工夫が必要です。
【業界別】GraphRAGの活用事例
ここでは、GraphRAGの活用事例を業界別にご紹介します。
医療業界:医療記録や臨床研究データから重要な知見を抽出
医学論文や臨床データを構造化し、薬剤・症状・研究結果の関係性を整理する用途で活用されています。
例えば、断片的な知識を繋ぎ合わせて、「一見無関係に見える研究結果の共通項」を浮き彫りすることで、新薬開発や個別化医療の進展を後押ししています。
教育業界:大量の教育コンテンツから、パーソナライズされた学習体験を提供
教科書、動画講義、過去の試験結果などをナレッジグラフで繋ぎ、学習者に最適な学習順序を提示する仕組みに応用されています。
具体的には、「Aという概念を理解するには、BとCの事前知識が必要である」といった依存関係をグラフで管理することで、体系的かつ効率的な教育をサポートしています。
金融業界:不正検出やリスク管理
企業間の取引、株主構成、取締役の兼任関係、資金の移動経路などをグラフ構造で把握することで、巧妙に隠蔽されたマネーロンダリングや組織的な不正の検知に活用されています。
まとめ
GraphRAGは、ナレッジグラフを活用することで、生成AIに高い文脈理解と推論能力を与える技術です。
しかし、GraphRAGを実装し、そのポテンシャルを最大限に引き出すためには、LLMの深い理解はもちろん、グラフデータベースの知識やコスト管理といった高度な専門スキルが必須です。
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