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フリーランス保護新法とは?内容や下請法との違い、背景を解説

フリーランス保護新法とは、フリーランスをトラブルから守り、働きやすい環境を整えるために検討されている新しい法律です。

フリーランス保護新法により、フリーランスとの取引における遵守事項が規定されるため、フリーランスや、フリーランスに業務を依頼する事業者の間で、最終的な法律の内容が注目されています。

この記事では、フリーランス保護新法の制定に向けて政府が動き出した背景や、具体的な内容の方針、類似の法律である下請法との違いなどについて解説します。

フリーランス保護新法とは?

フリーランス保護新法とは、フリーランスの取引を適正化し、フリーランスとして安定的に働ける環境を整えることを目的とした法律です。

フリーランスの権利や立場を保護するため、フリーランスに業務を委託する事業者が、フリーランスに対して不当な要求などをしないよう、契約や支払いについての遵守事項を定めることが主な内容となっています。

なお、フリーランス保護新法は、政府が2022年9月13日に示した「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」に由来する仮称で、2023年3月現在、正式な法律名や法案の内容などは、国会への法案提出に向けて準備が進められている段階です。

フリーランス保護新法の背景

フリーランス保護新法が検討されはじめた背景として、フリーランス人口の増加と、それに伴う取引上のトラブルが増えているという状況があります。

フリーランス保護新法により、フリーランスを保護する必要が生じている理由について説明します。

フリーランス人口の増加

政府の推進する働き方改革や、働き方の価値観の変化などの理由により、フリーランス人口は増加傾向にあります。

クラウドソーシングサービスやフリーランス向けのエージェントなど、フリーランスが仕事を探せる環境が整ってきていることや、コロナ禍以降のリモートワークの普及などの影響もあり、今後もフリーランス人口は増加していくことが想定されます。そのため、フリーランスをトラブルから守り、働きやすい環境を整えることが急務となっているのです。

フリーランスは取引上の立場が弱くなりがち

フリーランスは企業の後ろ盾がなく、個人として取引をする関係上、どうしても立場が弱くなってしまいます。加えて、フリーランスは下請法など現行の法律では対象とならないケースが多いことも、取引上の不利を招いています。

フリーランスは案件を獲得しないと収入が得られないため、依頼主から取引を継続してもらえるよう、多少の無理がある内容でも契約せざるを得ないケースもあります。また、契約内容に反した支払いの遅延や契約の打ち切りなどがあっても、対処する術を持たず、声を上げられないフリーランスもいます。

そのような状況からフリーランスを保護すべく、取引適正化に向けてフリーランス保護新法の検討が始まりました。

報酬未払いや遅延といったトラブル

フリーランスとして仕事を受注する際は、正式な契約書を交わすことが、自身の身を守ることにつながります。

しかし、現状では契約書の締結が明確に定められていないため、口約束のみで仕事を進めてしまい、報酬未払いや遅延といったトラブルが発生しています。

様々なリスクを考慮した内容で契約を結んでいれば対処もできますが、そもそも契約書を交わしてない場合は、泣き寝入りせざるを得ないケースもあります。

このようなトラブルを防ぎ、最低限守られるべき取引内容を定めることが、フリーランス保護新法の主な内容となっています。

不測の事態による途中納品といったトラブル

フリーランスとして契約した業務の途中で、病気や怪我、妊娠といったやむを得ない不測の事態により業務を完了できなくなった場合、無報酬となってしまうケースがこれまでは多々ありました。

完成物の納品が前提の業務であれば、フリーランス側の都合で中途解約となった際に報酬を要求することは難しいのが実情です。しかし、後にトラブルとならないよう、フリーランス保護新法ではこのようなケースの対応についても事前に取り決めを行うことを定める方針となっています。

フリーランス保護新法の内容

政府が示したフリーランス保護新法は、どのような内容になっているのでしょうか。「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」で公示された内容について説明していきます。

業務委託依頼時の書面交付の義務化

事業者がフリーランスに対して業務委託を依頼する時は、業務委託内容、報酬額などを記載した書面を交付するか、メール等での電磁的記録を提供することを義務化しています。

また、フリーランスと一定期間以上の間、継続的に業務委託を行う場合、上記に加えて業務委託の契約期間、契約の終了事由、契約の中途解除の際の費用などを記載しなければなりません。

中途解約・不更新の際の事前予告の義務化

事業者が、フリーランスと一定期間以上の間、継続的に業務委託を行う場合、契約を中途解除、または契約期間満了後に更新をしないときには、中途解約日または契約期間満了日の30日前までに予告することが義務化されます。

さらに、フリーランスからの求めがあった場合、事業者は契約の終了理由を明らかにしなければなりません。

委託募集時における表示内容の義務化

事業者が、業務委託するフリーランスを募集するときには、募集内容を正確に記載し、虚偽の内容や誤解を生じさせる表示をしてはいけません。

また、募集に応じて業務を受託するフリーランスに対して、募集内容に準じた事項を説明し、募集内容と異なる業務委託内容があれば、その旨を説明する義務があります。

60日以内の報酬支払い義務化

事業者は、フリーランスから納品物や業務等の委託内容の提供を受けた日から、 60日以内に報酬を支払うことが義務化されます。

フリーランスと取引を行う事業者の禁止行為

フリーランスとの取引を行う事業者について、以下の禁止事項が定められています。

・フリーランスの責めに帰すべき理由なく受領を拒否すること
・フリーランスの責めに帰すべき理由なく報酬を減額すること
・フリーランスの責めに帰すべき理由なく返品を行うこと
・通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること
・正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること
・自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
・フリーランスの責めに帰すべき理由なく給付の内容を変更させ、又はやり直しさせること

引用元:「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」

このように、フリーランス側に過失や落ち度がないにも関わらず、受領拒否や報酬の減額など、フリーランスの利益を不当に害してはならないという内容になっています。

ハラスメントや出産・育児・介護等への労働環境への配慮

事業者側のハラスメント行為について、体制の整備などによって必要な措置を講じる必要があります。

また、フリーランスと一定期間以上の間、継続的に業務委託を行う場合、フリーランスから出産・育児・介護などの申し出があった際、業務の両立に際し、就業条件などについて必要な配慮をすることが定められています。

フリーランス保護新法に依頼者側が違反した場合どうなる?

フリーランス保護新法で定められた遵守事項に依頼者側が違反した場合、行政上の措置として助言、指導、勧告、公表、命令を行うなど、必要な範囲で履行確保に向けた措置を設けると定められています。

行政指導や勧告等の措置が取られることは明記されているものの、具体的な罰則や罰金等については現時点で定められていないため、どの程度の強制力を持つ措置とするかは、今後の運用に際しての課題点となるかもしれません。

フリーランス保護新法と下請法の違い

フリーランス保護新法と類似の法律として、下請法があります。

下請法は、発注者である親事業者と、受注者である下請先の企業や個人事業主の取引を公正なものとし、下請先の利益を保護する法律です。

目的が似通っている下請法が存在するにも関わらず、現在、別の法律としてフリーランス保護新法が制定されようとしているのには理由があります。

下請法の適用には親事業者の資本金が1000万円を超えなければならない

下請法の定める下請事業者にはフリーランスも含まれますが、発注者である親事業者の資本金が1,000万円を超えないと下請法は適用されません。

しかし、フリーランスの取引先は資本金1,000万円以下の事業者や個人であることも少なくなく、現行の下請法では適用外となる取引が多く存在します。

そのようなケースを含め、フリーランスの利益を守るための法律として、フリーランス保護新法が必要とされているのです。

フリーランス保護新法は下請法を補完する

下請法の適用範囲を広げることでフリーランスを保護するという選択肢もありますが、下請法は元来、法人間の取引を想定した法律です。

そのため、ハラスメントや、出産・育児・介護など、受注者が個人であることを想定した内容を下請法に含めることは難しく、現在は別の法律として制定される方向性となっています。

フリーランス保護新法によって、下請法で保護されないフリーランスの取引が公正化され、下請法を補完する法律となることが期待されています。

フリーランス保護新法はいつから?

フリーランス保護新法は、当初2022年秋に国会に提出され成立する見込みでしたが、フリーランスの保護のあり方について引き続き議論する必要があるとの理由から、2022年中の国会提出は見送りとなりました。

2023年2月時点では、2023年の通常国会で提出される予定とされているため、法律の最終的な内容や、制定・施行のタイミングなどについて、引き続き注視していく必要があります。

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