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フルスタックエンジニアとは?仕事内容や年収、なる方法、必要なスキルを解説

ひとりで何役ものエンジニア業務をこなすことができる人材として「フルスタックエンジニア」と呼ばれる技術者がいます。開発者としての高いスキルや万能性を武器にソフトウェアやウェブ開発の担い手として注目が集まっています。

この記事では、フルスタックエンジニアの仕事内容やスキル、将来性などを紹介します。給料や年収、転職・就職・独立などのキャリアについてもみていきましょう。

フルスタックエンジニアとは

フルスタックエンジニアとは、システム開発やウェブ開発などのエンジニアリング業務において設計から開発・運用まで全ての行程を手掛けることができるエンジニアを指します。

通常は担当毎にパートを分けてチームで開発するような複数の技術分野を一人で担当できるため、マルチエンジニアと呼ばれることもあります。

以下では、万能なスキルを持つフルスタックエンジニアの必要性などについて、見ていきましょう。

フルスタックエンジニアが必要とされる理由とその背景

分野にとらわれずに幅広い仕事をこなせる点はフルスタックエンジニアの特徴です。ここでは、フルスタックエンジニアが必要とされる理由とその背景について、一つずつ見ていきましょう。

人件費の削減

プログラムを組み本番環境でシステムとして稼働するまでには様々な工程があります。また、開発の内容により必要なスキルや経験も異なります。そのため、環境構築、バックエンド、フロントエンドなど専門領域に長けたエンジニアがそれぞれの持ち場を担当し、組み合わせて1つの機能やアプリを完成するのが一般的です。

しかし、フルスタックエンジニアであれば、必要なスキルセットの異なる開発工程やプログラミングのタスクを1人でこなすことができます。通常は複数名のエンジニアが稼働して開発する仕事を1人で完了できるのですから、人件費削減になる点がメリットといえるでしょう。

プロジェクトが完了した後に、追加で開発を依頼するときも同様です。新たに技術者を募集せずに、フルスタックエンジニア1人で開発することができます。

開発スピードの向上

複数のエンジニアが力を合わせて開発を進めていると、足並みを揃えるのに苦労することがあります。チームでの開発を進める際には、全体像がわかるよう設計や要件をドキュメントに記載する必要がありますし、プロジェクト全体を管理するPM(プロジェクトマネージャー)などのポジションも求められます。

その点、フルスタックエンジニアが1人で開発をおこなえばスピーディーにゴールまで進行できます。こうした開発スピードの向上効果も、フルスタックエンジニアが必要とされる理由の一つです。

企業が求めるITエンジニアの役割の変化

フルスタックエンジニアが求められる背景に、企業が求めるITエンジニアの役割の変化があります。

従来のIT業界でエンジニアに期待されていた役割のうち大きなウェイトを占める業務が、依頼されたシステムの開発をおこなうことでした。開発したシステムを納品してしまえば、ひとまずエンジニアの役割は終了だったのです。

ところが、Web業界やスマホゲームなどの開発では機能追加や改善など開発後の運営が重要視されることもあり、次第にエンジニアの役割に変化が訪れてきています。サービスの安定稼働や開発したシステムに関連する追加開発など、サービスのローンチ後に担当することが増えてきたのです。

こうした状況から、1人でマルチに役割を果たせるフルスタックエンジニアの需要が増してきています。

技術のコモディティ化

情報システムやWeb開発を進めるためのフレームワークやライブラリが整備され、インターネット上での情報取得も容易となりつつあります。こうした状況から、以前より開発スキルの習得は容易になってきています。

プログラミングに関するオンライン学習サイトや書籍などの技術情報も充実する昨今では、Webサイト・スマホアプリなどの構築に必須とされるエンジニア技術はコモデティ化してきているといえるでしょう。

一方でテクノロジーが進歩したことで、システムのアーキテクチャは高度化しプロダクトに使われる技術要素は複雑化しています。そのような状況もフルスタックエンジニアの必要性を高める一因です。

海外開発やクラウドサービスの登場

海外に開発を委託するオフショアやクラウドなどの変化が、エンジニアのスキルセットに影響を与えている背景もあります。クラウドの伸びにより、サーバーやデータベースなど開発インフラの構築は必要な分だけ調達すればよいSaaSのカスタマイズ中心になりつつあります。

その分ツールで代用できる内容では開発の需要が減り、さらにはオフショアで働く人材との競争が激しくなっています。クラウドが浸透すると開発スピードの向上やコスト低下が可能になり、ロースキル案件はオフショアでの海外委託と競争になっています。

そのため、国内のSIer(システムインテグレーター)などでもより高い開発スキルを持つエンジニアが期待されているのです。

フルスタックエンジニアの年収

フルスタックエンジニアは、一般的なエンジニアよりも多くの仕事をこなし得る人材です。その分、年収にも期待できるのでしょうか。しかしながら、フルスタックエンジニアという職種の定義はあいまいな部分もあり、平均年収は不明確と言われています。

もちろん、フルスタックといわれる以上は一般的なエンジニアの平均といわれる年収500万円よりも高い年収は期待できます。企業にもよりますが、数人分の仕事を1人でこなすことで年収アップの交渉要素にできる期待があります。

フルスタックエンジニアとしての実績をもとにフリーランスで働くこともできます。独立したフリーランスのフルスタックエンジニアの単価は月60~80万円程度となっており、会社員の給料よりもさらに期待できます。

フルスタックエンジニアの仕事内容

フルスタックエンジニアが実際にどのような仕事をしているのか、見ていきましょう。幅広い範囲の仕事ができるスキルを持つフルスタックエンジニアですが、全ての開発を1人でおこなうこともあれば、チーム内のメンバーとしてスキルを提供することもあります。

フロントエンド開発

WebサイトやWebアプリのユーザーが直接目にする部分をフロントエンドと呼びますが、このフロントエンド開発もフルスタックエンジニアの仕事内容の一つです。例えばメッセージを送信するようなチャットアプリであれば、デザイナーが企画したUIデザインを基に、文字の入力や送信などの操作をコーディングして実装します。

フロントエンドの開発にHTMLやCSS、JavaScriptなどの言語を使うことが多くなります。フルスタックエンジニアがフロントエンド開発をおこなえると、コーダーの必要性がなくなります。

バックエンド開発

バックエンドは、ユーザーからは見えないサーバー側で動作する部分のプログラムを指します。ECサイトで注文を行う際の受注処理や在庫連携、決済や発送管理など何らかの機能が裏側で作動したりするのも、バックエンドでシステムが処理しているからです。

この開発をおこなうのは通常バックエンドエンジニアで、JavaやPHP、Perl、Rubyといったプログラミング言語を操って開発を進めます。フロントエンドもバックエンドも両方開発できるフルスタックエンジニアの場合、双方に担当者がいる場合より開発がスムーズになるでしょう。

モバイルアプリ開発

フルスタックエンジニアとして、モバイルアプリの開発に携わることもあります。iPhoneやAndroidなどモバイルアプリの開発では、Webサイトとは違うプログラミング言語が使われていることが多く、これらの言語への知識や理解が必要です。また、モバイル特有の技術や決まりごと、端末ごとの挙動なども踏まえた開発作業が必要となります。

通常、Webサイトの開発とモバイルアプリの開発担当者は、プログラミング言語の違いや作業負担の考慮から分けられることが多くなっています。その両方に対応できるフルスタックエンジニアであれば、Webとモバイルアプリの連動性が高い開発が行えるため、重宝されることでしょう。

インフラ周り

インフラ回りの作業についても、フルスタックエンジニアとして対応する場合があります。具体的にはサーバーの設計、ネットワークの構築、トラブル発生時の復旧作業、OSやミドルウェアのバージョンアップ対応などが挙げられます。近年はインフラのクラウド化も進んでいますので、クラウド環境の知識も必要となるケースがあります。

本来インフラ部分の作業はインフラエンジニアの担当箇所となりますが、幅広い領域に対応できるフルスタックエンジニアが担当することで、原因特定や復旧作業が効率的に行えるケースもあるようです。

Webデザイン

頻繁にあるケースではありませんが、フルスタックエンジニアがデザイン業務の一部を担うこともあります。デザインをゼロから作り上げるというわけでなく、Webデザインの修正としてコーディングの微調整などの作業に携わることがあります。こちらの作業は、フロントエンド作業の一部として含まれていることも多くあります。

フルスタックエンジニアに必要なスキル


万能とされるフルスタックエンジニアですが、何でもできるというのでは漠然としています。具体的にどのようなスキルが必要とされるのか、具体的に見ていきましょう。

プログラミング・開発スキル

フルスタックエンジニアはプログラミングによる開発業務をおこなうこともあるため、プログラミング言語の知識や開発スキルが必要です。現在主流とされているプログラミング言語を複数習得しておくとよいでしょう。

ミドルウェア、OSなどの知識

Windows・iOS・Android・Linuxといったコンピュータの管理システムであるOSについてスキルを身につけておくと、インフラ周りやバックエンドの仕事ができるようになります。OSの機能強化やアプリの中間ソフトであるミドルウェアについても、同様です。ただしミドルウェアの種類は多数になるため、代表的なものについて操作できることを目指すとよいでしょう。

クラウドサービスに関する知識

クラウドサービスは低コストでスピーディーに開発を進められるため、利用する企業が広がってきています。そのタイプは、SaaS・PaaS・IaaSの3つに分かれます。SaaSはサービスの提供、PaaSはプログラム・データベースなど実行環境の提供、IaaSはインフラの提供です。目的によって使い分けられるクラウドサービスですが、幅広い範囲の仕事を担当するフルスタックエンジニアはいずれの知識も持っておくと有利になります。

フロントエンド・バックエンドのスキル

前述のとおり、フルスタックエンジニアはフロントエンドやバックエンドの領域いずれにも対応するケースがあります。そのため、それぞれのスキルは必要となるでしょう。

フロントエンドであればHTMLやCSS、JavaScriptなどのスキルはしっかりと身に着けておきましょう。バックエンドであればプログラミングだけでなく、Webサーバーやデータベースの設計、構築などへの理解も深めておくと良いでしょう。

モバイルアプリ開発に関するスキル

モバイルアプリ開発に携わる場合、Swift、Kotlin、Javaといったモバイルアプリ開発によく用いられるプログラミング言語へのスキルが必要です。iOSやAndoridによって挙動が異なるなどもありますので、こうした点もあらかじめ理解しておきましょう。

フルスタックエンジニアになるには

フルスタックエンジニアを目指すにあたって、何が必要かを押さえておきましょう。

複数の専門分野をもつ

フルスタックエンジニアは、一言でいえば何でも屋さんです。アプリの開発をおこなうかたわら、インフラの整備をすることもあります。最初から何でも出来なければならないわけではなく、徐々に複数の専門分野を持てるように成長していけばよいでしょう。市場でニーズの高いスキルを選んで身につけていけば、より価値の高いフルスタックエンジニアになることができます。

最新情報の収集を常に続ける

フルスタックエンジニアに限らず、エンジニアやIT業界に属している人は常に最新情報を収集していかなければなりません。なぜなら最新技術は常に変化していき、開発手法一つとってもその移り変わりは非常に激しいものとなっているからです。

フルスタックエンジニアの場合、身に着けたスキルが古びたものとならないよう、特に意識して最新情報を獲得していかなければなりません。常に変化していく環境をとらえながら、市場のニーズに応える技術と知識を取り入れていくことを忘れないようにしましょう。

スキルアップを欠かさない

マルチなスキルを持っていながら、どのスキルも中途半端というのではフルスタックエンジニアとしての価値が下がりかねません。持っているスキルは常に磨き続けつつ、新しいスキルにも目を向けることが大切です。関わっている仕事で必要になりそうなスキルについても、進んで学ぶようにすると評価されやすいでしょう。

フルスタックエンジニアのキャリアパス

幅広いスキルを持つフルスタックエンジニアですが、そのキャリアパスはどうなっているのでしょうか。

フルスタックエンジニアのキャリアパスとしては、専門職として進んでいくパターンと、ITコンサルタントとして活動をしていくパターンの2種類に分かれることが多いようです。

専門職となる場合は、自身の得意分野や需要が高い領域に絞った専門性の高いエンジニアとして活躍するという方法です。インフラやクラウドに特化したクラウドエンジニアへの転向や、人気のプログラミング言語に特化したエンジニアへの転向なども考えられます。

ITコンサルタントとなる場合は、これまでフルスタックエンジニアとして培ってきた経験や知識を活用していくことになります。設計や構築、運用までの実務経験を備えていることでクライアントの要望にも応えやすくなるでしょう。コミュニケーション能力やプレゼンテーション能力などを磨いていけば、ITコンサルタントとして活躍することは決して難しくはありません。

フルスタックエンジニアの市場価値

ここからは、フルスタックエンジニアの市場価値について見ていきましょう。

スタートアップ・ベンチャー企業での求人需要

スタートアップ企業では、潤沢にあるとは限らない予算内で市場に認められる開発をしなければなりません。少ない人件費で会社組織の運営をやっていくには、フルスタックエンジニアのように複数の開発を担当できる正社員のエンジニア人材が必要です。

資金調達前のベンチャーやスタートアップは潤沢な予算で外部企業に開発を頼めるような位置にもないため、即戦力でマルチな技術を持つエンジニアを求める傾向があります。

転職が有利になる可能性が高い

オフショア開発に目を向ける企業が増えてきていることからもわかるように、国内のエンジニアはまだまだ不足しています。

スキルや実績を積んだ経験者の需要は高いといえます。その点、フルスタックエンジニアは複数のスキルを持っているため転職で有利です。

採用する側も、1人のエンジニアで数人分の仕事をしてくれるフルスタックエンジニアを雇えば人件費を軽減できます。転職で有利に持ち込むには、市場でニーズの高いスキルを供えておくことが大切です。

フルスタックエンジニアの将来性

フルスタックエンジニアの将来性についてですが、生産性向上の観点からいっても引き続き期待できると思われます。ひとりあたりの生産性が高く効率よく開発をできれば、低スキルな技術者を数多く雇用しなくても済み、エンジニア組織のマネジメントや進捗管理に手間をとられることもありません。

また、クラウドサービスの普及により、サービス構築の難易度が下がっているのもフルスタックエンジニアにとって有利な状況です。クラウド上でシステムの保守や運用が可能になり、専門のインフラエンジニアでなくてもシステム構築が容易になってきています。これまでエンジニアがおこなってきたサーバー構築や保守などの業務負担が軽くなる分、フルスタックエンジニアは他の開発業務にまい進できるのです。

市場においてフルスタックエンジニアのニーズは高まっており、その価値も認められています。多数のスキルを持ち、1人何役もこなしてくれるフルスタックエンジニアを目指すのは無理なことではありません。スキルを増やしつつ様々な経験を積むことで、いつの間にかフルスタックエンジニアになっている人もいます。さらなる活躍を目指して、市場で重宝されるフルスタックエンジニアになってみませんか。

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